競争の激しいタイプビートの世界で自分のビートを見つけてもらうためには戦略が必要です。やみくもにYouTubeにビートをアップするだけでは、ビートが売れることはもとより再生されることすらほとんどありません。ここではタイプビートを販売するにあたって、より多くの顧客にリーチし売り上げにつなげるための方法とツールを紹介いたします。
1. 調査
トレンドを知る
ビートを売るためには市場をリサーチし、ラッパーの需要に合ったトラックを制作する必要があります。
タイプビートを購入する文化が浸透しているアメリカ、カナダ、イギリス、フランスなどのチャートや人気のプレイリストをチェックしてみしましょう。

- YouTube: Music Charts & Insights (アメリカ)
- Spotify: RapCaviar
- Apple Music: Rap Life
- billboard: Hot R&B/Hip-Hop Songs
ただし、リスナーに人気の楽曲が必ずしもラッパーが求めているビートのスタイルと同じとは限らないので注意が必要です。
トレンドや、ビッグネームのリリースタイミングに合わせたり、少し先を予想したスタイルのビートを制作するなど独自の戦略を考えましょう。
キーワードとタグを考える
「〇〇 Type Beat」のネーミング方法には2つのパターンがあります。
パターン1:制作前に市場調査を行い、需要のあるビートに寄せて作る
この方法は効果的ですが、器用なプロデューサーにしかできません。また続けていると次第にビート制作が楽しくなくなり、継続することが困難になるでしょう。
パターン2:好きにビートを作った後に誰がラップしそうかを考えて命名する
この方法は「〇〇 Type Beat」とラベルは張られているが、中身はオリジナルのビートです。毎回需要に合ったビートができるかは分かりませんが。この方法の方が楽しく制作を続けることができるでしょう。
ですので、ビートを作る際に「〇〇 Type Beatを作る」と事前に決める必要はありません。自分の適正に合った制作スタイルを見つけましょう。
このような制作プロセスからも「タイプビートはパクリ」というのは間違った認識であることがわかります。あくまで「〇〇 Type Beat」といったネーミングはビートをYouTubeの検索結果の上位に表示させ、より多くのユーザーに聴いてもらうためのラベルでしかないのです。
YouTubeでのSEO対策
やみくもにタイトルやタグを付けるのではなく、Google トレンドやキーワードプランナーといったツールを活用し、検索にひっかかりやすいキーワードを見つけましょう。
Google トレンドで「Type Beat」と調べてみると人気のキーワードや急激に検索数が増加している関連キーワードを簡単に知ることができます。
例:アメリカで過去90日間にYouTube内で「Type Beat」と共に検索された関連ワード キーワードプランナーを使えばキーワードの検索ボリュームが調べられる
急激に検索数が伸びているキーワードのタイプビートを制作すれば、多くのラッパーに聴いてもらえる可能性が高まります。また「Drake Type Beat」など人気が高すぎるキーワードは競争が激しく、チャンネル登録者以外にビートを聴いてもらえる可能性はほぼありません。
Googleの各ツールについて詳しく学びたい方はGoogle デジタルワークショップをご覧ください。
その他にもTubeBuddyという無料のGoogle Chrome拡張機能使えば特定のキーワードのYouTube上での競争率を測定でき、どのような動画タイトルやタグなら検索結果の上位を狙えるかを調べることができます。
「Drake Type Beat」では検索結果の上位を狙える可能性はほぼ無い 「KOHH Type Beat」の方が検索結果の上位を狙える可能性がある
検索数は多いが競合の少ないニッチを見つけましょう。また動画タイトルやタグにはアーティスト名や楽曲名だけでなく、長期的に検索されるジャンルやムードも組み込みましょう。人気ラッパーも数年後には人気が落ちて検索されなくなるかもしれませんが、ジャンルやムードは長期的に検索され続けます。
2. 制作
タイプビートを販売するには以下の素材を準備する必要があります。
- ビート音源
- WAV(44.1kHz/16bit 以上)
- Track Stems(マルチトラック音源データ)
商品であるビートのクオリティが何よりも大事なのは言うまでもありませんが、ビートが売れるためにはラッパーが自由に遊べる余白を残す必要があります。音数が多すぎてラップが入る余地がなかったり、ビートが主張しすぎてアーティストのスポットライトを奪ったりしないよう心がけましょう。
またスキルの高いラッパーほど自由に遊べるスペースがあるビートを好む傾向にあるため、自分のビートをハイレベルなラッパーに採用してもらうためにもビートはシンプルな構成にとどめておきましょう。
また、商品である音源ファイルの整理も大切です。ファイル名はわかりやすくトラック名、プロデューサー名、BPMは必ず記載しましょう。

- アートワーク
- ビートストア用のアートワーク(BeatStarsは1500×1500を推奨)
- YouTubeのサムネイル(1280×720)
認識しやすく、美意識を感じさせる一貫したデザインで独自のブランディングをしましょう。
画像編集の初心者もCanvaを使えば無料で簡単にグラフィックデザインを始めることができます。またPixabayやPxHereといったサイトでは高品質なフリー画像素材を入手できます。
- ビートビデオ
- YouTube用(1920×1080)
- Instagram用(1080×1080、60秒以内)
写真、イラスト、ロゴ、アニメーション、オーディオビジュアライザーなど目を引く工夫を凝らしましょう。ミュージックビデオの様にあまりに力を入れすぎると定期的に投稿することが難しくなるので気をつけてください。
またFL StudioのようにDAW内で動画作成が行えるソフトウェアもあります。
3. 投稿
必要な素材が用意できたらビートを販売サイト、YouTube、各SNSに投稿しましょう。その際には必ずビートの購入リンクと適切なタグを忘れずに記載します。

またYouTubeではユーザーの使用言語ごとに表示させるタイトルと説明を設定することができるので、英語と日本語それぞれ文面を用意しましょう。

そしてビートは必ず定期的に投稿しましょう。定期的に良質なコンテンツをアップロードするチャンネルほど検索結果の上位に表示されるようにYouTubeのアルゴリズムは設計されています。
気が向いた時に投稿するのではYouTube内でのチャンネルの評価は下がり、検索結果に動画が表示されにくくなります。自分の生活に合った継続できるペースで定期的に投稿を行いましょう。
4. 宣伝
検索ボリュームが多い「Drake」や「XXXTENTACION」といったキーワードのタイプビートは競争率が高すぎるため、チャンネル登録者以外に聴いてもらうためにはGoogle 広告を適切に使用する必要があります。
広告から売り上げにつなげるには実際にタイプビートを購入してくれる層にだけターゲットを絞る必要があります。やみくもに広告を打って再生回数だけ伸びても購入につながらなければ広告費がムダになってしまいます。
Google 広告の使い方やリスティング広告については詳しいサイトや書籍が山ほどあるので、ここでは実際にタイプビートを宣伝する際の広告キャンペーンの例を紹介します。
キャンペーンの例

- 目標:商品やブランドの比較検討
- キャンペーン タイプ:動画
- キャンペーンのサブタイプ:検討段階で働きかける
- 言語:英語
- 地域:アメリカ合衆国
- 性別:男性
- 年齢:18〜34才
- オーディエンス:ラップ、ヒップホップ ファン
- キーワード:DaBaby Type Beat、NLE Choppa Type Beat、Guitar Trap Type Beatなど
- 動画広告のフォーマット:TrueView ディスカバリー広告
またプレースメント機能を使えば検索結果上位のタイプビートの動画や人気のオンライン・プロデューサーのチャンネルの視聴者に自分のビートの広告を表示させることができます。

その他にも、広告をムダ打ちしないためにラッパー以外の音楽リスナーや同業のプロデューサーに対しては広告を表示しないように除外キーワードを設定するなどの工夫も必要です。
除外キーワードの例:music video, how to make, making of, how to sell, official, lyric, tutorial, fl studio, live
この様にタイプビートの販売は、市場調査に基づき需要に合った高品質な商品をコンスタントに製造し、ターゲット層に合った広告を打ち、いかに効率よくコンバージョン(購入)につなげるかという、eコマースと同じであることがわかります。
有料広告を使いたくない場合は、ブログやタイプビート以外の動画コンテンツなどでファンを増やすといった方法もあります。人気オンライン・プロデューサーの多くはタイプビート以外にも様々な発信を行っています。
5. 集客
タイプビートの売り上げを伸ばすにはYouTubeのチャンネル登録者数やSNSのフォロワー数も大切ですが、最も重要なのはメーリングリストの登録者数です。
SNSには流行り廃れがあり、アルゴリズムのアップデートにより突然投稿がフォロワーに表示されずらくなるといった危険性があるため頼りすぎるのは禁物です。それに対しメールはSNSの投稿よりも読まれる可能性が高く、ユーザーに直接メッセージを届けることができます。ビートの購入やフリービートのダウンロード時にメールアドレスを登録してくれた人たちはあなたに高い関心を持ってくれています。
多くのECサイトを訪れると最初にメーリングリストへの登録を促されるのは、どの企業もメールマーケティングの重要性を心得ているからです。

BeatStarsやAirbitといったビート販売サイトはMailchimpなどのメールマーケティングのソフトウェアと連動できる機能が備わっています。
これらのツールを駆使し、クオリティーの高いビートと有益なコンテンツの投稿を定期的に行い、ブランド力を高め、メーリングリストの登録者数を増やし「お金を払ってくれるファン」に直接コミュニケーションをとれる環境を築き上げましょう。
また、未発掘の才能のあるラッパーにSNSで直接コンタクトをとるのも効果的でしょう。Noah “40” Shebib、Nick Miraなど多くの一流プロデューサーはいち早く新人ラッパーの才能に目をつけ、初期から活動をサポートすることによってアーティストの成功とともにキャリアを積んできました。
だからといって決して、手当たり次第にスパムメッセージを送るのはやめましょう。オンラインビジネスであるからこそ、一人一人とのつながりが大切になります。
6. 改善
ビートを投稿したあとは、売り上げ、YouTubeのアナリティクス、広告キャンペーンのステータスなどを分析し今後の制作に生かしましょう。結果の出なかった種類のビートは以後投稿せず、効果の無い広告も中止しましょう。
必ずしも自信作が売れるとは限らなかったり、意外なビート売れたりするのもタイプビートの面白いところです。
おわりに
タイプビートを売るには楽曲制作力は言うまでもなく、様々なスキル、そして運が求められます。
ここで紹介した手法はタイプビートを販売する上での基礎であり、すでに世界中のオンライン・プロデューサーが何年も前から実践してきたことばかりです。
やみくもにYouTubeにタイプビートを投稿すれば一獲千金できるといった時代はとっくの昔に終わっています。競争が激しいタイプビートの世界でこそ個性を持ち、アーティストとのリアルな関係を築き上げ、独自の戦略で活動する必要があります。
Keep Grinding:成功への鍵は一貫性
タイプビート発の最大のヒット曲、Lil Nas Xの「Old Town Road」のプロデューサー、Young KioのBeatStarsのページには500以上のビートが投稿されています。

彼は学生時代、週末にまとめてビートを7つ制作し、毎日1つずつアップロードすることを2年間1度も怠らずに行っていたと語っています。
タイプビート市場がいかに甘くないか理解していただけたかと思いますが、自分のビートを世界のどこかの誰かがお金を出して買ってくれたときの喜びは、何ものにも代えがたいです。
またビートが1度も売れなくても、新しいビートを作るたびにトラックメイキングのスキルは少しずつ上達していきます。
もしかしたらグラミー賞だって夢じゃない世界規模の楽曲コンペに参加しているという意識で、長期的な目線で自分の成長を楽しみにながら諦めずに続けてください。
この記事が皆さまの今後の活動の参考となり、ビートの売り上げ、そしてその先の素晴らしいアーティストとの出会いのきっかけになれば幸いです。
MCKNSY
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