Type Beat(タイプビート)とは?

YouTube上にあふれるType Beatとは? ラッパーがビートを借りる? 過熱するビートリーシングビジネスの現状

はじめに:ヒップホップ/R&Bがアメリカで最も人気の音楽ジャンルに

2017年7月、ヒップホップ/R&Bがはじめてロックを抜きアメリカで最も人気の音楽ジャンルになったと報じられました。(出典: Forbes “Report: Hip-Hop/R&B Is The Dominant Genre In The U.S. For The First Time” Jul 17, 2017)

日本で暮らしていると実感がありませんが、ヒップホップは世界的にいま最も人気のある音楽ジャンルです。Billboardやストリーミングサイトのチャートを見渡しても、ランクインしている多くの楽曲がヒップホップであり、ヒップホップこそが今日のポピュラーミュージックと言っても差し支えない状況です。

Hip Hop and R&B: The Most Dominant Genres in the U.S.

世界中の若者たちがラッパーを目指している

*最近はこんな格好のラッパーは減りました

いま、最も支持されている音楽ジャンルであるヒップホップに感銘を受け、自己表現の手段としてラップを選ぶ若者が後を絶ちません。フレッシュなスタイルを持ったラッパーが次々と登場してはシーンを賑わせています。

2018年最も聴かれたインディペンデントアーティスト: XXXTENTACION

ヒップホップにおけるビートの重要性

ラップをするにあたって不可欠なのがビートです。ビートはヒップホップの楽曲の人気を大きく左右する重要な要素であり、プロデューサーと呼ばれるビートメーカーたちの中にはMetro BoominZaytovenのようにカリスマ的な人気を誇る者もいます。

ただし、多くの新人ラッパーにはそのような大物プロデューサーにビートを提供してもらえるような機会やお金はありません。

周りにビートを提供してくれるプロデューサーがいなかったり、自分でビートを制作することのできないラッパーたちはどのように楽曲制作をしているのでしょうか?

若いラッパーたちはどのようにしてビートを探しているのか?

正解はYouTubeです。

YouTubeにはType Beat(タイプビート)と呼ばれるインストゥルメンタルのビート動画が無数にアップロードされています。これらの動画はビートビデオと呼ばれ、中には数百万回も再生されている無名のプロデューサーによるビデオも存在します。

タイプビートとは?

タイプビートとは「〇〇っぽいビート」という意味です。

例えば「Drake Type Beat」は「Drakeっぽいビート」という意味です。

もしも、Chance The Rapperがラップしそうなトラックが欲しい場合は「Chance The Rapper Type Beat」とYouTubeで検索してビートを探すわけです。

アーティスト名以外にも、楽曲名に絞って「This Is America」っぽいトラックを探したければ「This Is America Type Beat」と検索すればいいのです。

いま、このような人気楽曲に似たタイプビートをプロデューサーたちは日々YouTubeに投稿しています。ヒップホップ以外にもPOPS、R&B、EDMなどのタイプビートも多く存在します。

YouTube | ミックスリスト – Type Beat

タイプビート売買のしくみ

YouTubeで気に入ったタイプビートを見つけたら、その動画の説明欄に記載されている購入リンクからBeatStarsAirbitといった、ビート販売サイトへ行き、そこでビートの音源と使用権をすぐに購入することができます。

ビートビデオ:動画の説明欄にはビートの購入リンクが記載されている

支払いはPayPalかStripe経由ですぐにビートを制作したプロデューサーへ送金されます。

こうしてYouTube上の無数のカタログの中から好みのビートを探し出し、煩わしい金額交渉をすることもなく、簡単にビートを手に入れることができ、作り手のプロデューサーも即座に支払いを受け取れる仕組みが生まれました。

これによって、YouTubeはラッパーとプロデューサーをつなげるプラットフォームとして確固たる地位を確立し、若いラッパーたちはレコードを掘るようにYouTubeで日々理想のビートを探し求めるようになったのです。

YouTubeでビートを掘る

ラッパーがビートを借りる? ビートリーシングビジネスとは?

「お金がないから、安い値段でビート借してくれない?」

このタイプビート文化の最も画期的な点は、「ビートを借りる」という概念にあります。ビートストアと呼ばれるビート購入ページに行くと、様々な価格の契約オプションが用意されています。

ユーザーは自身の使用用途に合ったビートのライセンスを選択してビートの音源データと一緒に購入できる仕組みになっているのです。このビジネスモデルはビートリーシングビジネスと呼ばれ、ヒップホップ業界に革命を起こしました。

様々なライセンスオプション

各プロデューサーのビートストアにはビートの使用に当たり様々な価格のライセンスオプションが用意されています。

ビート販売サイトBeatStars|購入ページには様々な価格のライセンスオプションが用意されている

ライセンスオプションと価格の一例:

  • Non-Exclusive ($24.99): MP3+使用制限あり
  • Premium Lease ($34.99): MP3+WAV+使用制限あり
  • Trackout Lease ($69.99): MP3+WAV+Stems+使用制限あり
  • Unlimited Lease ($199.99): MP3+WAV+Stems+使用制限なし
  • Exclusive (最高付け値): 独占使用

目的に合ったライセンスオプションを購入できることによって・・・

「お金がないからとりあえず$25のMP3リースを買ってラップ乗っけてみよう」

「ラップ録音してみたらいい感じに仕上がったから、MP3をCD音質のWAVに差し換えてリリースしよう」

「プロのエンジニアにミックスし直してもらいたいからStems(マルチトラック音源データ)付きのライセンスを買おう」

「リリースするにあたって、他のラッパーに同じビートを使われたくないから独占使用権を買い取ろう」

などといった予算や目的にあった音源とライセンスの購入が可能になりました。

ビートリーシングビジネスがプロデューサーにもたらした恩恵

タイプビート文化はビートを制作するプロデューサーにも経済的な恩恵をもたらしました。

従来、プロデューサーがラッパーにビートを渡しても実際に自分の制作したビートが採用されるか分からないまま、しばらく月日が経ち、もしも運良く採用されて楽曲がリリースされたとなっても、ギャラや印税を受け取れるのはいつになるか分からないことがほとんどでした。したがって、多くのプロデューサーは見通しのたたない不安定な生活を余儀なくされていました。

それに対し、オンラインで購入されたビートの代金は即座にプロデューサーに支払われます。

さらに、ビートをリースするというビジネスモデルによっていままでには考えられなかった、1つのトラックの使用権を複数のアーティストに購入してもらうといったことが可能になりました。

$25のMP3リースでも100人が購入すれば、$2,500になるということです。よって、人気のビートは独占使用権を誰かに売り渡さない限り、長期的にプロデューサーに利益をもたらしてくれる資産となり得るのです。

したがって、ごく限られた少数の売れているアーティストにトラックが採用されなくても、プロデューサーとして立派に収入を得ることができ、長期的に安定したキャリアを形成できる環境が生まれつつあるのです。

Kato Talks Making $30K Per Month Selling Beats, Producer Marketing, Facebook Ads + More

タイプビート上がりの人気プロデューサー

ビートを提供した楽曲のヒットにより注目を浴び、メジャーのシーンへ進出を果たしたタイプビート出身のプロデューサーも数多く出てきています。

Taz TaylorIzakなど、すでに第一線で活躍するプロデューサーの中でもかつてタイプビートを作っていたという人物がいます。

Stingの「Shape Of My Heart」をサンプリグしたことでも話題になり2018年にヒットした、Juice WRLDの「Lucid Dreams」を手がけたプロデューサー、Nick Mira (Internet Money) もタイプビートシーン上がりのプロデューサーの1人です。

Nick Mira Breaks Down JuiceWRLD’s “Lucid Dreams” Instrumental (HNHH Behind the Beat)
Drakeなど数々のアーティストの楽曲を手掛けるMurda Beatzもタイプビートからキャリアをスタートしている

あの大ヒット曲も元々はタイプビートだった

YouTubeで2.9億回以上の再生回数を誇る、2016年に大ヒットしたDesiignerの「Panda」も元々は「Meek Mill—Ace Hood Type Beat」という名前で販売されていたものでした。

「あのヒット曲が実はタイプビートだった」といった例が後を絶ちません。

全米シングル・チャート最長1位の新記録を樹立したLil Nas Xの「Old Town Road」のビートは19歳のオランダ人プロデューサー、Young KioがBeatStarsで販売していたタイプビート

人気ラッパーがタイプビートを採用した事例も

第一線で活躍するラッパーも、A&Rや周囲の人間がビートを探してくるのを待たないで、自らYouTubeでフレッシュなビートを探しています。

A$AP Rockyの「Fine Whine」の制作背景には、A$AP Rocky本人が「A$AP Rocky Type Beat」とYouTubeで検索して発見したビートが採用されたといったシンデレラストーリーのようなエピソードもあります。

フリービートとは?

ところで、YouTubeでタイプビートを探しているとタイトルに「FREE」と書かれているものを多く見かけます。

*タイトルにある[FREE]とは著作権フリーという意味ではない

フリービート ≠ 著作権フリー

ここでの「FREE」とは著作権フリーの無料音楽素材という意味では決してありません。

これは、ユーザーが購入の検討のための試聴、デモ録音等の非営利目的のみでの使用が許されたMP3を、メール登録やSNSでのフォローと引き換えに無料=「FREE」でダウンロードできるという意味で使われています。

参照:BeatStars FAQs | Free Sample Download License

ですので、タイトルに「FREE」と謳われているビートであっても決してフリーライセンスという意味ではありません。ビートを商業的に使用したい場合は正規購入をしなければいけません。

もしも、そのビートを購入しないまま勝手に使用したり、YouTube動画から音声をリッピングしたものにラップを乗せて公開しても、YouTubeのコンテンツIDによって追跡、発見され、オリジナルのビートの制作者がマネタイズできるような仕組みが構築されています。

ビートのアタマに流れるアノ音声は何のため?

また、これらのフリービートにはプロデューサータグと呼ばれる、誰が制作したビートなのか判別できるように、自身の名前などを叫ぶといったトレードマーク的な音声が埋め込まれています。

ビートを正規購入すればプロデューサータグのない音源データを手に入れることができます。

反対に、有名プロデューサーのタグはブランド的価値を持ち、ヒット曲の冒頭などでもよく耳にすることがあります。

有名プロデューサータグ:どこかで耳にしたことがあるのでは?

過熱するビートリーシングビジネスの現状

日本ではまだタイプビートという言葉も、ビートをリースするといった概念もほとんど浸透していませんが、世界的にこのシーンはすでに飽和しているようにもみえます。

無数のオンラインプロデューサーがYouTubeにあふれ、数千もの「Drake Type Beat」が毎日アップロードされている現状は供給過多と言わざるを得ません。

この激しい競争の中で成功しているプロデューサーたちは、独自のサウンドや、美意識、ブランドイメージを持ち、ハイクオリティーなビートを定期的にリリースしています。さらにSNSで積極的にラッパーと交流し、リスティング広告を駆使した巧みなオンラインマーケティングを行っています。

さらにAraabMuzikLex LugerHavoc (Mobb Deep)といったすでに長年にわたり業界で活躍している大物プロデューサーたちもビートリーシングビジネスに参入し、競争はより激しくなっています。

How “Type Beats” Have Changed Hip-Hop Production | Genius News

タイプビートはパクリか?

盛り上がるタイプビートシーンですが、同時に各所で論争も巻き起こしています。

最もよくある批判に、タイプビートは没個性的、クリエイティビティがないといったものがあります。

ですが、タイプビートは人気アーティストや楽曲のパクリではありません。あくまで「〇〇 Type Beat」といったネーミングは、ビートをより多くのユーザーに売るためのマーケティング戦略、そして自分のビートをYouTubeの検索結果の上位に表示させるためのSEO対策として行っていると考えるのが正しい認識でしょう。

また多くの人気ラッパー名も数年後には人気が落ちて検索されなくなってしまう可能性があるため「Dark」「Sad」「Chill」 や 「Lo-Fi」といった楽曲のムードのように長期的に検索され続けるキーワードを軸に差別化を図るプロデューサーもいます。

「Sad Beats」といったキーワードを軸として差別化をはかるプロデューサー: MISERY

まとめ:タイプビートシーンの未来

すでに市場は飽和状態のようにも思えるタイプビートシーンですが、ラッパーの新しいビートへの需要は絶えることはありません。また多くのプロデューサーにとってタイプビートシーンはいまだにブレイクのきっかけや、長期的に安定したキャリアを形成するための活路であることに違いはありません。

ラッパーたちは今後も新しいビートを求めてYouTubeをディグり続け、タイプビートからヒット曲は生まれ続けるでしょう。次世代のスター・プロデューサーもタイプビートシーンから勝ち上がってきた人物になるに違いありません。

なにより、ブレイク前のプロデューサーたちにとっては、この誰でもオンライン上の無限のビートカタログにアクセスできる時代において、タイプビートシーンやYouTubeでのプレゼンスがなければ、今日からラップを始めたいと思い立ったアマチュアラッパーにすら自分のビートを使ってもらえない時代なのです。友達のラッパーに自分のビートでラップをしてくれと頼んだところで「お前のこの程度のビートだったらタイプビートを使った方がマシだわ!」と言われてしまうかもしれません。

このゲームに参加するかしないにかかわらず、今日のプロデューサーたちは自分の作品が、ネット上にあふれるタイプビートとの競争に常にさらされていることを認識しなければいけません。

おわりに:タイプビート始めました!

結論として、このエキサイティングなタイプビートシーンに飛び込み、世界に挑戦しない理由がないと意気投合した仲間たちと、MCKNSY(読み:マッキンゼー)という、おそらく日本初のタイプビートの制作および販売とリースに特化したプロデューサー集団を結成いたしました。

新しいビートは週3回定期的にリリースされますのでぜひYouTubeのチャンネル登録をよろしくお願いします。

まだお金はないけど才能と情熱のあふれる、世界のどこかにきっといるであろう未来のKendrick Lamarとつながれるかもしれないといった夢のもとで始めたプロジェクトです。何卒応援のほどよろしくお願いいたします!

今後、日本でもタイプビートシーンが盛り上がり才能のあるアーティストとプロデューサーがつながり、ビートリーシングの概念の普及によって経済的に余裕が生まれ長期的なキャリアを形成することのできるプロデューサーが増え、大勢のリスナーの心を揺さぶるような優れた作品が数多く生まれ続ける時代が到来することを願って。

MCKNSY


MCKNSY | Links


参考文献

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